獄寺隼人編


あなたにはじめてお会いしたとき。これがオレの『運命』だと思った。
今まで信じたことも、祈ったこともなかった神なんてヤツに感謝したぐらいだ。
その瞬間からあなたがオレのすべて。
オレの腕も、指も、足も、胸も、顔も、瞳も、命すら、ぜんぶ。
―――ぜんぶ、あなたのものだ。
Vongola Ring'Battle#06
その手に大空の輝きを



「ランボ!ランボ、しっかりして」
「ひでぇな、こりゃ」
なんとか助け出したものの、ランボは全身に火傷と打撲を負い、意識不明の重傷だった。
「急いで病院へ運ぼう」
「ですが、十代目・・・・」
「そんな!こんなひどいケガなのに、治療できないなんて」
『仕方ありませんねぇ。ホントはマフィアを助けるなんて死んでもごめんですが』
「ムクロ?」
それまで気配を隠していたムクロが霧とともにあらわれた。ムクロはツナヨシの側にしゃがみこむと、ランボの体に手をあてる。そして幻術の淡い光がまたたき、ランボの体は光の球の中に閉じこめられた。
「幻術で仮死状態に封印しました。ケガが治ることはありませんが、これ以上進行することもありません。しばらくは、このままで大丈夫でしょう」
「ムクロ・・・ありがとう」
「礼を受け取るつもりはありませんよ」
「そうだ、ケガが進行しないなら、了平さんも」
「いや、オレはいい。たいしたことないからな」
(この先、何があるかわからんからな。少しでも戦力は確保しておくべきだ)
「くふふ、意外と物を考えているんですね。笹川了平」
「むっ、『意外』とは何だ!『意外』とは」
「では、ボクはこれで。どうやら次の対戦も<霧>ではないようですし」

「引き続きリング争奪戦を行います。次に対戦する守護者は<嵐>です。守護者候補はバトルフィールドへ」
「では、十代目。獄寺隼人行きます!」
「獄寺くん・・・気をつけてね」
「はい!」
気合いが込められた獄寺の背中をツナヨシは見つめる。その表情は硬く、暗い。
(ホントにいいの?ランボをこんな目にあわせて。おにいさんにも、ケガさせて。
イヤだよ。もう誰も傷つく所なんて見たくないよ・・・誰一人失いたくない)
そんなツナヨシをリボーンは遠くから冷静に見守る。
(その想いをのりこえろ、ツナ。ボスの重み、それは命を受け入れる重みだ。
ファミリーの誓いと命をあずかる重みを・・・)


<嵐>の守護者対決、そのバトルフィールドは廃村だった。崩れ落ちる寸前の建物は、視界を遮り、かつ足場も悪い。互いの行動を読み、フィールドの特徴を有効に活用することが求められる、頭脳戦でもあった。
ザンザスの<嵐>の守護者は、ベルフェゴール。ヴァリアーでも天才と呼ばれる格闘センスの持ち主で、「切り裂き王子」の異名を持つナイフ使い。
「では、<嵐>の守護者、獄寺隼人vsベルフェゴール―――バトル開始」
直後、両者とも大きく後方へ跳び、距離をとる。
(ここでオレが勝てば流れは変わる。十代目の右腕の名に賭けて、ぜったい負けるわけにはいかねぇ)
「いくぜ!!3倍ボム」
「しっしっし。王子、よゆー」
大量に襲い来るダイナマイトをベルフェゴールは、すばやい身のこなしで断ち切る。
「予想通りだぜ、ならこれでどうだ!ロケット・ボム!!」
「なっ!」
ベルの動きが止まる一瞬を狙って、方向転換するダイナマイトがベルを強襲する。狙った標的はのがさない、怒濤の<嵐>の攻撃。爆炎が闇夜を紅く染め上げる。
(相手はヴァリアーだか天才だかしらねぇが。終わったぜ)
とその瞬間、煙を切り裂き大量のナイフが獄寺に飛来する。
「なに!ぐっ!!」肩に突き刺さったナイフを抜き、距離をとる獄寺。
「・・・確かに直撃をくらったはずだ」
そして煙の中から『切り裂き王子』が現れる。その口元に歪んだ笑みを浮かべて。
「やば。でも王子、天才だから。ししし・・・今度はこっちから行くよ」
ふたたび襲いかかるナイフの群をかわした獄寺だったが、しかし突然全身から血しぶきがあがる。
「ぐ、なんだ!?ナイフに触れてねぇぞ!」
「ししし。ホントの嵐の攻撃ってのは、これを言うのさ!」
ベルの手元から幾千のナイフが解き放たれる。それはさながら嵐に舞う、木の葉。自在に空中を飛び、獄寺に襲いかかる。ナイフをよけても、見えない刃が切り裂く、絶対絶命の窮地だ。
「・・・やべぇな。隼人のやつ、タネをあばかねぇと勝ち目はないぜ」
「シャマル、きてたの?」
「よぉ、ボンゴレ。どっかケガしてねぇか。にししし」と卑猥な手つきで近づいてきたのは、獄寺の家庭教師をつとめたシャマルだった。
「ふざけてないで、なんとかしてよ!」
「言った通りだ。どんな技にも必ずタネはある。それをあばけないかぎり、隼人に勝ち目はない」
「獄寺くん・・・」
ベルの猛攻は続き、獄寺はなんとか致命傷をさける一方的な展開となった。ナイフをよけながら距離をとる獄寺だったか、着地した直後、すぐ側の廃墟が爆発した。
「なにっ!ぐぁ」
爆風に吹き飛ばされる獄寺、一気に距離をつめていたベルもあわてて後方へ跳ぶ。
「ししし。やばやば。今度は何?」
『言い忘れておりましたが、このバトルフィールド内には時限爆弾が設置されております。開始15分が経過すると、各地で自動的に爆発する設定になっています』
「見えない刃によめない爆発。どうしようもないかのかよ!くそっ・・・・」
獄寺の手からダイナマイトがこぼれおちる。彼は目を閉じると、静かにたたずんだ。
「ししし。あきらめてお祈りの時間かな?なら望み通り最後にしてあげるっよ!」
ベルフェゴールのナイフが一斉に獄寺に襲いかかる。
「獄寺!」
「タコヘッド!」
「死ぬ気か!隼人!」
(・・・バカ・シャマルめ。オレだって無駄死にするつもりはねぇよ。
この命も、血の一滴も、おれのすべては、ぜんぶ、ぜんぶ・・・
「獄寺くん!」鮮烈にとびこんでくる、その声。
・・・・十代目。あなたのものだ)