笹川了平編


オレを呼ぶその声、はにかむような笑い方。
それだけで、体は火照り、鼓動は乱れて、頭の中は真っ白だ。
指先ひとつつかわずに、オレをノックアウトするとは。
―――極限にたいしたヤツだと思ったぞ。
Vongola Ring'Battle#04
その手に大空の輝きを



7日後、チェルベッロ機関の用意したヘリにのせられ、たどり着いたのは、町からずいぶんと離れた山奥だった。そこでは、各守護者にふさわしいバトルフィールドが用意されているという。
ボンゴレリング争奪戦。お互いにボンゴレハーフリングを所持し、それぞれの守護者候補が対決する、ルール無用のデスマッチ。その勝者の条件は、相手を倒しボンゴレリングを完成させること。
チェルベッロ機関、ディーノ、リボーンが立ち会い、それぞれの候補者が見守る中、いよいよ<晴>の守護者が対決する。
―――その舞台は特設・格闘リングだった。

ザンザスの<晴>の守護者は、ルッスーリア。形容しがたい髪型に、くねくねとした仕草やオネェコトバで見落としがちだが、長身で、手足も長く、細身の体は引き締まっている。ヴァリアー内でも屈指の格闘家で、油断できない相手だった。
「相手にとって不足はない。極限・正々堂々と勝負だ!」颯爽とリングへあがる了平。
「んまぁ、あなたよく見るといいカラダしてるわねぇ。
 ワタシのコレクションに加えてア・ゲ・ル☆」
「・・・十代目、あいつ何言ってんスかね」
「えっーと・・・」
つかみどころがない相手にとまどうツナヨシ・サイドを置き去りに、チェルベッロたちが冷静にはじまりを告げる。
「では、ボンゴレ<晴>の守護者、笹川了平vsルッスーリア―――バトル開始」

その言葉と同時に、まばゆい閃光が闇夜を切り裂いた。
リング上に設置されていた、超強力なライト。
まるで、灼熱の太陽をかかげているかのような、強烈な光が了平の視界を奪う。
「うっぐ、何も見えんぞ!!」
「了平さん!」
「あらあらぁ、タ・イ・ヘ・ンねぇ。まぁワタシは平気だけど・・・はぁっ!」
「ぐあっ!」
「芝生頭!」
「先輩!」
「了平さん!」
視力を奪われた了平に、サングラスで視界を確保しているルッスーリアの容赦ない攻撃が続く。肉を打つ鈍い音が響き、たまらずリングに沈む了平に追い打ちをかけるように、ライトの熱が襲いかかる。
「やべぇな、コラ。リョーヘイのやつ脱水症状をおこしてるぞ、コラ」
「えっ、そんな!」
照りつける光、灼けつく熱が、了平の体力を削り取っていく。
「ぐっ・・・」
遠のく意識に、ツナヨシの声が届く。つよく、つよく、想いをのせて。
「了平さん!しっかりしてください!!了平さんっ!―――おにいさんっ!!」


(なつかしい呼び方だな、沢田・・・)
もうずいぶん昔になるのか。はじめて会ったとき、オレは並盛中の三年で、おまえは二つ下の後輩で、妹・京子の親友だった。
同じ学校にマフィアの後継者がいると聞いて早速我がボクシング部に勧誘するためでかけていったのだが。
屈強な猛者を想像していたオレを見事に裏切り、目の前には華奢な女子が立っていた。
「なっ、女子だったのか。いや、女子だろうとかまわん。ボクシングに男も女もないぞ。沢田!ぜひとも我がボクシング部に来い!」
「はぁ?なに言ってやがんだ?この芝生頭」
「まー、まー、先輩。落ち着いてください」
いきりたつ獄寺と止めに入ったのは山本、と言ったか。噂は聞いていた。この二人も是非ともボクシング部に欲しかったが。彼ら二人とは違って、おまえは一瞬キョトンとしたあと、オレに微笑みかけた。
「あ、京子ちゃんの―――おにいさん?」
それだけで、たったそれだけで、体が火照り、鼓動は乱れ、頭の中は真っ白だ。
「っ・・・うむ。笹川了平だ」
かろうじて返事をかえしたあの時の自分を、今でも極限、誉めてやりたいと思うぞ。

あれから数年がたち、ボンゴレに入ってからは、もう『おにいさん』ではなく、『了平さん』とその呼び名は変わってしまったが。その声はかわらない。
つよく、やさしく、耳に心地よい。


そうだ、オレをノックアウトしたのは、ただ一人。
その唯一の人間が見ているのに、
「・・・こんなところで寝てなど、いられん!!」
「そうだぞ、コラ。今こそ、逆境をはねかえす時―――行けっ、リョーヘイ!」
「おう!コロネロ師匠!!―――くらえ!マキシマム・キャノン!!」
「何度やっても同じよ!返り討ちにしてアゲルわ〜」
熱い想いを託した拳がぶつかる!
そして―――
「ん、なぁぁぁ!!」
極限に凝縮されたエネルギーがルッスーリアをふきとばす。
その姿はまさに、ファミリーに襲いかかる逆境を自らの肉体ではねのける、日輪。
了平は見事<晴>のリングを完成させ、リング争奪戦、その初戦を勝利で勝ち取ったのだった。


―――そして次に対決するは、<雷>の守護者。