リボーン編


はじめて目にしたその娘には、ボスになり得る素質など何一つ見あたらなかった。
それなのに、なぜかオレは確信してた。
この、すぐ泣き、笑い、怒り、心配する、忙しい小娘が
―――――いずれボンゴレ・デーチモになると。
Vongola Ring'Battle#03
その手に大空の輝きを



オレがサワダ・ツナヨシの元を訪ねた時、彼女は両親を事故で亡くした直後だった。
ボンゴレ九代目の依頼を受け、オレはおまえのカテキョーとして来日したのだった。
はじめて会ったのは、夕暮れ時。
昼と夜のはざま、その黄昏の光を背負って。おまえは墓石の前にたっていた。
影がおちて、その表情を読みとることはできなかったが、おまえが泣いていたのは容易に察せられた。
「・・・だれ?」
「オレの名はリボーン。おまえの家庭教師だぞ」
「家庭教師・・・」
「そうだ、ツナヨシ。今日からオレがビシビシしごいてやるぞ」
「っ、ふっ・・・う・・・リボ・・・ン?」
「そうだ、ツナ」
(――――おまえは、もう一人じゃない)
そうして泣き崩れるツナヨシを連れて帰ることが、オレの最初の仕事になった。

あの瞬間から、どれだけ時がすぎても。
この手のかかる生徒は、いつもささいなことで、泣き、笑い、怒って、心配し、忙しく表情がかわり、正直、見ていてあきることがなかった。
そんなおまえの何に惹かれてか、獄寺や山本をはじめ、徐々にファミリーは増え、そして中学を卒業したおまえは、ファミリーをつれてイタリアにやってきた。
――――イタリアマフィアの古参、このボンゴレファミリーに。


ヴァリアーによる襲撃から一夜あけて、ボンゴレ本部の屋敷。
その会議室にツナヨシと、雲雀と骸をのぞく守護者、そして側近たちが集まっていた。
召集をかけたリボーンは先ほどから黙したまま、思考の海に意識をあずけている。
(やはりきたか、ザンザス・・・・)
十代目継承にザンザスたちが何らかの行動をおこす。それは想像にかたくなかった。だが、ここまでの速さと規模のクーデターを起こすとはな。
これから先の闘いはこいつらにとって、想像以上に過酷なものになるだろう。
ボンゴレボスとしての、そして守護者としての、実力と覚悟をとわれるのだ。
―――その命を賭けて。
そして、オレが教えてやることも、あと、わずか。


思考に沈んでいたリボーンはスッと目をあけると、口をひらいた。
「これから7日間、おまえ達それぞれにカテキョーをつける。死ぬ気の修行で徹底的に鍛えあげるぞ」
「うっす」「おう」「望むところだ」
守護者たちの熱がこもった返事に、あわててツナヨシが声をあげる。
「リボーン!ちょっと待ってよ」
「なんだ?」
「リング争奪戦なんて!相手はヴァリアーなんだよ!?そんな危険なことみんなにさせらられないよ」
「・・・甘いこと言ってんじゃねぇぞ、ツナ。ボンゴレはマフィアごっこじゃねぇんだぞ。こいつらだってそれをわかって守護者を継承したんだ。命を賭ける覚悟はもうとっくにしてるはずだぞ」
「でも・・・」
「そうッスよ、十代目!ヴァリアーなんて目じゃないッス」
「おう。極限にまけせておけ」
「なははは、ランボさん。よゆーなんだもんね」
「そうだぜ!オレたち絶対勝つからさ。心配すんなよ、な!」
「獄寺くん、了平さん、ランボ、山本・・・」
「んじゃ、さっそくカテキョーを紹介するぞ。
了平にはコロネロ、獄寺にはシャマル、ランボにはイーピン、山本にはバジル・・・」
「オレも手をかすぜ?リボーン」と、部下を引き連れ颯爽と現れたのは―――
「ディーノさん!でも、審判は中立で手出しできないんじゃ?」
「そりゃリング争奪戦がはじまったらな。けど今はまだはじまってないだろ?」とツナヨシにわらいかける。
「んじゃ、ディーノは雲雀だ」
「オッケ」
「リボーンさん、骸はどうすんですか?」
「あいつはしばらく放っておく。霧の守護者の修行は、誰に教えられてどうこうってもんじゃないからな。あいつのことだから、その辺の能力者たちと戦闘して修行するつもりだろうが・・・」
「なるほどな、コラ。んじゃ、リボーンおまえは・・・」
「ああ、オレはこのツナを鍛えるぞ。時間がねぇ、おまえら死ぬ気で修行してこい!!」
「はいっ!」「おう!」


会議の後、ツナヨシはリボーンに連れられ修行場に来ていた。
そこはボンゴレ敷地内にある無数の演習場のひとつ。深い森にかこまれた山で、近くに川がながれる、主にサバイバル訓練に使われている演習場だった。
「んじゃ、さっそく修行に入るぞ」
「リボーン!まって・・・やっぱり、ザンザスと闘うなんてできないよ!」
「甘えてんじゃねぇぞ、ツナ。おまえが、ボンゴレのボスなんだぞ。九代目の意志を、覚悟をうけとったんだぞ!」
「リボーン、でもザンザスは誤解してる。
わたしは、闘うより、彼と―――ザンザスと話しがしたいんだ!」
人が傷つくのはイヤだ。たとえ、どんな理由があっても。
守護者のみんな、支えてくれる人たち、大切な人たちが傷つくなんて、そんなのイヤだよ。耐えられない。
それに、ザンザス・・・あの人の瞳は、こわい。血を連想させる、紅い瞳。
けど、なぜか悲しい瞳だと思う。
「それに、こんなにクーデターの規模が拡大したのだって、ボンゴレ内部にザンザスを支持する人たちがいたからでしょう?わたしの汚名を信じて・・・」
「気付いてたのか・・・」
「うん」あなたは隠してくれてたけど。
各地で占拠されたボンゴレ関連施設の数、いっこうに収まらない戦闘。これで、こんな状況でボンゴレボスだなんて、あの人の後継者だなんて、いえないよ。
「誤解から闘うことなんてない。誰かが傷つくことなんてないんだ!話したらきっと・・・」
「それでどうする?ザンザスと話して、十代目をヤツにくれてやるのか?」
「っ、それは・・・」
「ボスはおまえだ、ボンゴレ・デーチモ。それは決してかわらない。
逃げるな、ツナ。その重さからも、おまえの宿命からも」
「リボーン・・・」
「時間がねぇ、修行をはじめるぞ」