六道骸編


ボンゴレ十代目という存在は不可解で、不愉快だ。
彼女のことを考えると、おちつかない気分になる。
彼女が他の誰かを想うとイライラし、その無計画な行動にはハラハラし、ましてやその瞳がボクに向けられれば、なぜか心がモヤモヤする。まったく、やっかいな存在だ。
だからこそ、彼女をたおすのはボク。他の男が彼女を傷つけるなんて、
――――そんなことは許されない。
Vongola Ring'Battle#08
その手に大空の輝きを



息のつまる剣士の対決を制し、<雨>のリングを獲得した山本にツナヨシたちが駆け寄る。
「山本!大丈夫?」と心配するツナヨシに、「おお。ツナ、勝ったぜ」と山本は明るく笑う。
しかし、そんな二人にスクアーロが冷徹な言葉を投げかける。
「う゛ぉぉぉい。どうした?さっさと、とどめをさせぇ」
「スクアーロ・・・やだね。これは勝負だろ。オレは殺し合いをしてるんじゃないからな」
「・・・はっ、甘いぜ。今この瞬間が、最後のチャンスだ。ここでオレを殺さない限り、オレは何度でもおまえの大切なものを狙う―――その女をな」
その言葉に山本から表情が消え、瞬時にツナヨシを背後にかばいこむ。
無言で刀を構える山本を横目で見やると、スクアーロは諦観とともに、目を閉じた。最後に一目、己の剣を捧げた主を見つめて。
(それでいい。敗者は消えるのみ。それがこの世界の理。こいつらがこの先、生き残るには、その『覚悟』が足りてねぇ。・・・負けたヤツに次はねぇ、折れた剣に用はねぇ・・・ザンザス・・・)
「スクアーロ・・・」刀を握る山本の手に力がこもる。
しかし、まさに刃が振り下ろされる瞬間、その手をとっさにツナヨシがつかんだ。
「ツナ!」
「・・・いいよ。何度でも狙ってきなよっ!それであなたが生きているなら、かまわない」
「なっ、んだと?ふざけるなっ!オレはザンザスの『剣』。道具は道具としてあればいい。価値をなくした道具など・・・みじめなだけだ。折れた剣はいらねぇ。オレの誇りを、剣士の誓いを汚すな」
「バカっ!剣士の誇りだか、誓いだか知らないけど、守るって決めた相手を置いていっていいわけないでしょう!誓いを守れなかったなら、次は絶対守ればいい。もっと強くなればいい。剣を捧げた主を置いて、どうするつもりなんだ!あなたが逝った次の瞬間、ザンザスが襲われたらどうするんだよっ!」
「ぶっ!ああははっは。だよな!・・・なっ、ウチのボスにはかなわねぇだろ?!」
いつだって、一番大事なことを思い出させてくれる。だからこそ。
「スクアーロ、お前がツナを狙うなら、何度だってオレが守ってやればいい。それだけだ」
「はっ、つくづく甘い連中だぜ・・・だが、山本。その『言葉』忘れるな」
剣士は常に、己の剣を捧げる相手を求めている。オレはザンザスに、お前はその小娘に。そういうことか。


『くふふ、サワダツナヨシ。やはりキミは甘い』
「ムクロ!」音もなく背後に現れた人物に飛び上がるツナヨシ。
「なにぃ、てめぇが言える立場かよ!」
「獄寺隼人。存分に警戒してくださって結構ですよ。ボクはまだサワダツナヨシを諦めてはいませんからね」
「なんだとっ!てめぇ」
「・・・ムクロ」
くふふ、だからこそ他の男があなたを傷つけるなんて
―――そんなことは許されない。


「では引き続きリング争奪戦を行います。次の対戦は<霧>の守護者です。バトルフィールドへ移動しますので、みなさま、こちらに」
「やっとボクの番がきたようですね」
<霧>の守護者対決。その舞台は村の教会だった。かろうじて、骨組みと屋根は残るものの、内部はがらんどうで、やぶれた窓からは静かに霧が流れ込んでいる。
「では<霧>の守護者は中央へ。これより<霧>の対決においては、みなさま、その観覧席からお出になりませんよう」
「えっ、なんで?」
「幻術合戦になるからだぞ、コラ」
「コロネロ!いつの間に」
「ちょっと気になることがあってな。リボーンも同じだぞ、コラ」
そっか、ムクロは幻術使い。ザンザスの守護者も幻術使いなんだ。
次の瞬間、あちこちに灯された蝋燭の火がゆらりと揺れる。そして闇を割るように現れたのは、空中に浮かぶ小さな人影。黒のコートで全身を覆い、頭にカエルをのせた、赤ん坊だった。
「でたな。ザンザスの霧の守護者、マーモン!いや・・・・」
「ふん、金も払わないのに見物かい?コロネロ、リボーン。まっ、いいさ特別に見せてあげるよ、ボクの力を」そう言うとマーモンはジャラリと鎖をほどいた。
その瞬間、コロネロとリボーンのおしゃぶりが、まばゆい光を放つ。
「この光は!やはり」
「アルコバレーノのバイパー」冷静につぶやくリボーンにコロネロが反論する。
「だが、なぜ今までおしゃぶりが反応しなかったんだ、コラ」
「ふん、ボクは研究を怠らなかったからね。この呪いを解く努力を」
「呪い?」その言葉にツナヨシがコロネロとリボーンを心配そうに見やる。
「おしゃべりは、そのくらいにして、そろそろボクの相手をしてもらいましょうか」
「ふん、知ってるよ。六道骸、北イタリア・マフィア惨殺の主犯。でもキミ、ヴィンヴィチェに囚われの身だろ?そんな体でボクの相手なんてできるのかな?」
「くふふ。マフィア風情が大きくでましたね」
睨み合う二人に呼応して霧が渦巻く。
「では、<霧>の守護者、六道骸 vs マーモン―――バトル開始」

バトル開始と同時に、ムクロが仕掛けた。
ムクロが武器を地面に突き刺すと、石畳を引き裂き、いくつもの火柱が出現する。
「わっ!」
「すげー」
「あいつ前に闘った時とはダンチだぜ」
驚くツナヨシたちをおいて、灼熱の炎は竜となり、マーモンを襲う。しかし、
「ふんっ、このくらいの幻術」
マーモンのおしゃぶりが光ったと思うと、火柱は一瞬で凍結する。教会に吹雪が吹き荒れ、見守るツナヨシたちにも冷気が襲いかかる。
「くふふ、さすがにアルコバレーノ」
「そうさ。この呪われた力、とくと味合わせてあげるよ」
一瞬で氷の柱と化した竜は逆にムクロを強襲する。氷の竜はムクロをのみこみ、そのまま固い氷の牢獄にムクロを閉じこめた。
「ムクロ!」叫ぶツナヨシにどこからかムクロの声が響く。
『くふふ、そんなにあわてなくても、これからですよ』
そして、次の瞬間には氷がくだかれ、蓮の花が乱れ咲く。息もつかせぬ、幻術対幻術。在るものが、無く、無いものが、存在する。
超一流の幻術使いの攻防に、ツナヨシ達はのみこまれた。
「どうなってやがんだ」
「何がなんだかわかんねぇぜ。ホントにここは教会なのか!」
「幻術ってのは、相手の五感を支配下におくってことだぞ。つまり幻術にかかっているオレ達の五感は今、あいつらの支配下にあるってことだ」
「っ、頭が痛い・・・」
「オレも、目がまわるぜ」
「ああ・・・」
「幻術にのまれかけてるな、コラ。幻術が現実を浸食してやがる。やばいぜ、コラ」
「っあぁ!頭がわれそうだ」
「十代目!」崩れ落ちるツナヨシをとっさに獄寺が支える。