『いちばん欲しいものは何ですか?』
と聞かれれば、サワダツナヨシは惑うことなくこう答える。
―――――平穏な日常、と。
Happy Happy Birthday#01
はっぴぃ・はっぴぃ・ばーすでぃ



「お誕生日おめでとうございますっ!!」
「なのな」
「極限にめでたいっ」
「ボスおめでとう」
「なははは、お祭りなんだもんね〜」
クラッカーの華やかな破裂音とともに、十人十色の祝福の声が会場に響いた。
「みんな、ありがとう」
守護者たちの祝福を受け取ったサワダツナヨシは、はずんだ声でこたえると、ふにゃりととろけそうな笑みを浮かべる。
10月14日。
今日はツナヨシがこの世に生を受けてから、18回目の誕生日である。
パーティー会場となったホールは、あふれんばかりの花で飾られ、テーブルの上には色鮮やかな料理が所狭しと並んでいる。
「うわーすっごい豪華だねぇ。大変だったでしょう。ありがと、獄寺くん」
この日のために、せっせと指揮をとっていたのは、ツナヨシの右腕たる<嵐>の守護者、獄寺隼人だ。敬愛するボンゴレ十代目にニコリと微笑まれた獄寺は、犬ならば猛然と尻尾をふる勢いで応える。
「そんな、恐縮っス!!それから十代目、これはオレからのプレゼントです」
「え、何?このリボンをひっぱったらいいの?」
ずずいっと差し出されたピンクのリボンをグイッとひっぱれば。
会場の中央に設置されていた謎のかたまり(なにやら細長い物体に白い布がかけられている)の覆いがハラリとはずれ床に落ちる。
そして、そこに現れたのは
――――等身大1/1スケール・サワダツナヨシの銅像であった。
しかも、いささか、いやかなり現物よりも美化されている感がある。
「「「「・・・・」」」」」
「どうっすか?!十代目」
キラキラと灰緑の瞳を輝かせてご機嫌な獄寺とは反対に、会場はシーンと静まり返った。
(いや、気になってはいたよ。うん、さっきから視界にチラチラ入ってたしね。けど、まさか、自分の像だとは・・・・はっきり言って、どうしろというのだ!)
「・・・いらない」
「えっ!!なぜですか!!細部に至るまで完璧ですよ!!」
「獄寺君、悪いけど、い・ら・な・い」
「・・・はい」
問答無用。極寒の冷気漂う笑みを浮かべてツナヨシは言い切った。ピシッと瞬時に凍てつき、パキンと砕け散った獄寺を横目に会場の隅に控えていた構成員たちは、なんとも言えない虚ろな表情でツナヨシの銅像を撤去して行ったのだった。


崩れ去った獄寺をひょいとよけて、次にツナヨシの前に登場したのはツナヨシの親友にして<雨>の守護者である山本武だった。
「ははは、相変わらずなのな獄寺。ツナ、これはオレから」
ドサリと山本が手渡したのは、ポップな柄の大きな紙袋。ズッシリと重いそれをツナヨシはあわてて両手で抱える。
「うわ、ありがと山本。あけてもいい?」
「おう」
ガサゴソとリボンをほどいて、袋口をあければ中からは続々とでてくる。でてくる。各種サプリメントの山。
「やっぱさ、野球選手は体が資本だからな。ちょっと味気ないけど、オレおすすめのサプリメントとかイロイロ一式な」
「あ、ありがと・・・・う、山本?」
「ん?」
「あのさ、これ何?」
そう言ってツナヨシが取り出したボトルには、でかでかと『効果バツグン!!これで今夜もオールナイトフィーバー』とド・ピンクな文字が踊る。他にも、『東洋の媚薬!気になる彼女もこれでムラムラ』だの、『N●SAも認めたダイナマイトな持続力』だの。はっきり言って、怪しすぎる。プロテインとかビタミン剤に隠れて『精力増強』『強力催淫成分配合』などと、なんともいかがわしい文字が見え隠れしてるのだった。
「ありゃ、バレちまったか。まっ、もしもの時のためにとっといて欲しいのな」
「おい・・・」
(いや、そんなにこやかな笑顔で言われても。もしも、ってナニ?)
爽やかな好青年の顔をして危険すぎる男なのだった。