『ねぇ、つーのとこ、サンタさんくる?』
不安げな声に彼女は振り返ると、ニッコリと花が咲くように微笑んで、こう答えた。
『いい子にしてたら、きっと来てくれるわよ。ツッくんは何をお願いするの?』
『あのね。つーはね・・・・』
2010.12.24
ベリー・メリー・クリスマス





―――――なつかしい夢を見た。
白昼夢。いつの間にか意識を飛ばしていたらしい。
書類をめくる手も知らず知らず止まっていたようで、ツナヨシは苦笑する。
ふと手元の時計を見れば、『2010.12.24 23:53』のデジタル表示。
そうか、今日はクリスマスイブだったのだ。


「いい子にしてたら・・・か」
母の言葉にツナヨシはクスリと笑う。
自分はもう、世界に夢見る無邪気な子どもではなく。
血と炎の洗礼を受けたこの身は、幾多の命を奪い、生きてきた。
罪深きマフィアが、この聖なる夜を祝う愚かしさも、滑稽さも理解している。
けれど。それでも、イブの夜には心が騒ぐ。
あのユーモラスな白髭の老人が、今にも暖炉から飛び出してや来ないかと。


そんなことは万に一つもありはしないのだけれど。
ふふ、と淡い笑みをひとつ落とすと、ツナヨシは手元の書類に目を向ける。
さっさと片づけてしまおうと紙面をめくりペンを取るが、何やら扉口が騒がしい。
「ん?」
いったい、こんな時間に誰なのか。耳を澄ますと、
『押すな!この野球バカ!!』
『っても、後ろからもグイグイ来てるのな。やべっ、ケーキつぶれるって!!』
『ケーキ!?ランボさん、今すぐケーキ食べるんだもんね!』
『何をしておるか、早くせねば極限間にあわんぞ!』
『ちょっと、何勝手に群れさせてるのさ・・・咬み殺すよ』
『クフフ、ここでキミが暴れるのはかまいませんが。いいのですか?せっかくの好機を逃しても』
そうしてドタバタと騒ぐ気配に、扉は軋んで、ついにドバンッと決壊する。
『あ。メ、メリークリスマス!!
 十代目、ツナ、ダメツナー、サワダ、・・・・(怒)、ツナヨシくん』
執務室に雪崩れ込んできた面々に、ツナヨシは目を見開いた。
なぜか全員揃いも揃って、赤と白の、この時期お決まりの衣装で。
あまりの、想像をはるかに凌駕した光景に、ツナヨシは思わずフリーズする。
常日頃、協調性から最も遠い、この守護者たちが。
そう考えると、思わず笑いがこみあげてきた。
クスクスと突如笑い出したツナヨシに、彼らはキョトンと首をかしげて。
その不安げな仕草さえも、おかしくて、愛しくて。
ふにゃり、と微笑むとツナヨシは口をひらいた。


幼かったあの日の自分が、あざやかに甦る。
『あのね。つーはね・・・・』


―――――願い事はひとつだけ。
いつまでも、みんなで、幸せでありますように。

「Very Merry X’mas!!」


END.