ともあれ、そうこうするうちに窓の外ではツナヨシ達の戦闘はさらに激しさを増していく。
加速するスピード。地上のみならず空中でさえもバトルフィールドに繰り広げられるハイパーに高度な、かつ、はた迷惑な闘いである。
「この、バカ、アル中、おたんこなす」
「るせぇ、童顔、貧弱、貧乏性。見かけもガキなら、中身もガキだな。」
「くっ、オレだって成長してるっての!この、たぁ!!」
「はっ、うぜぇ!」
ドカドカと炎に拳に足に。罵り合う内容はげんなりするほど低レベルだが、繰り出される技はハイパーに高レベルだ。
「レミーマルタン、ダースで買ったぐれえでガタガタ言うな。貧乏くせぇ。」
「悪かったな!これがフツーの金銭感覚だ!!つーか、酒代だけじゃないんだよ!!和牛サーロイン日本から空輸って、どういうことだよ!他にもフィレだのラムだの、マトンだの、挙げ句に馬刺って、酒と肉ばっかじゃないか、野菜も食べろよ!」
――――いやいや、話がズレてる。ズレてる。なにその夫婦な会話は。
「あのーもしかして、ツッコミたいのってミーだけですかー?」
「ししし、やってみ。お前、確実死んだね」
「まぁ、止めはしないよ」
「う゛ぉい、何でもいいからアイツらを止めてこい」
夫婦喧嘩の様相を呈してきた罵り合いに、盛大にげんなりとするスクアーロなのだった。
そんな観戦者たちの杞憂など構うことなく、ボス二人は目まぐるしく攻守を入れ換えぶつかり合う。
「っ、この分からず屋のぐうたら昼寝男!!」
炎の推進力で加速したツナヨシの飛び蹴りを、クロスした腕で防いだザンザスは勢いを無理に殺すことなくそのまま後方に飛んで受け流す。そして、スクアーロ達が観戦する窓のすぐ側に、あろうことか壁面にダンッと着地した。その衝撃にザンザスの足元がビシッとひび割れるが、当の本人は堪えた様子もなく、ゆらりと身を起こす。
――――地面と平行に直立して。
ザンザスの黒いコートが重力にひかれてたなびく。ザンザスを追いかけてツナヨシもそのまま壁に直立すると、バサリとジャケットを脱ぎ捨てた。
ハアハアと息は荒いが、いまだ鮮烈な光を宿したオレンジの瞳がザンザスを捕らえ、対する真紅の瞳は、戦闘の愉悦に妖しく濡れて。
「ザンザス。ホント、いい加減にしろよ」
「はっ、そっくりそのままテメーに返してやるぜ」
ピキピキと空気が張りつめていく。
絡みあう視線は灼けつくほどに、熱く、熱く。
二人は同時に踏み込むと、壁面を蹴り、駆けだした。
ドッ、ガッ、ゴスッ、嵐のような拳の応酬。力ではツナヨシに分が悪い。ザンザスの拳をかわし、いなし、受け流しながらも、手数を増やして反撃する。が、さすがに相手は暗殺部隊の隊長だ、顎を狙った拳はあっさりと掌で受け止められ、逆に太い腕がツナヨシのそれを絡めとる。
獲物を捕らえた黒い獣はニヤリと不敵に嗤うと、ヒュッと半身を捻り、回し蹴りをツナヨシのボディに叩き込んだ。
「ぐっ」
かろうじて残る片腕でガードしたものの、ザンザスの重い蹴りにツナヨシの体は壁を離れて空中にはじき飛ばされる。
飛ばされたツナヨシは炎を噴射し、空中でくるりと回転。体勢を整えた。
だがしかし、ツナヨシが動きを止めた一瞬の隙を見逃さず、ザンザスも追って空中に飛び出すと、
「かっ消えろ!!マルテーロ・ディ・フィアンマ!!」
あらん限りの銃弾を撃ち込んだ。
空間すべてを灼き尽くす、死の鉄槌がツナヨシを強襲する。
「ムムッ、あれは・・・」
「あたる!!」
「う゛ぉい、直撃だぞ!」
闇夜に煌々と輝く巨大な炎の塊。美しくも危険な華が咲き誇る。
爆炎が真昼のようにあたりを照らし出し、爆風はベル達が観戦するガラス窓をもビリビリと揺さぶって。あまりの爆発の激しさに、さしもの彼らも言葉を失った。