血と炎に愛されたボンゴレ・デーチモ。
イタリアマフィア界でも伝統、格式、規模、全てにおいてトップクラスのファミリーを統率する存在。ベルフェゴールのすぐ側に、だらしなく座りこんでいる、この小柄な青年がそれだと言うのだから、恐れ入る。
華奢な体に茶色の癖毛、琥珀色の大きな瞳、童顔の、甘い甘いお人好し。
じっと見られていることに気づきもしないで、痛みに顔をしかめたツナヨシは、シャツの袖をまくり上げると傷口を検分しはじめた。
鋭い切り口だが深さはない。事実、血もすでに止まりつつある。
この程度ならばこの後の執務に支障はないだろう。
そう判断すると、ツナヨシは流れる血をペロリと舐めとり、シャツの袖を破っては不器用に巻きつけていく。包帯を巻いたというより、もはや布玉と化した腕をげんなりと見やる姿に、ベルフェゴールは呆れ果てる。
(これが、ボンゴレ・デーチモ。さっきとは、まったく別人だぜ)
変わらずの激しい変化にベルフェゴールは困惑するが。
見つめる先、ツナヨシの唇には真紅の血。その艶めかしさに、思わず眼を奪われた。
ベルフェゴールの絡みつくような視線に、ツナヨシはキョトンと首を傾げて問いかける。
「何?」
「・・・血」
「血?」
そう血だ。血。血。血。ツナヨシの血。
あの紅い液体も、この男と同じように、甘いのだろうか?
そう思い至っただけで、ドクドクと体が疼く。
ジリジリとにじり寄ったベルフェゴールはツナヨシの細い肩に手をかけ、そっと顎を持ち上げた。
「ちょ、なに?ベルの血じゃないだろ」
「いいじゃん・・・・ちょっと味見させてよ」
「は?」
そう囁くが早いかベルフェゴールはツナヨシに口づける。突然の口づけに抵抗するツナヨシを軽々と抱き込んで、ベルフェゴールはよりいっそう深く口づけた。
「ん、うぅ」
もがくツナヨシにさらに唇をよせて、息を求めて開いた唇から口腔へ侵入する。思うさまツナヨシを貪ると、最後には器用にペロリと唇を舐めとり、ベルフェゴールは顔を離した。
「・・・甘い」
「な、何考えてんだよ!」
こと、こういった方面にはつくづく弱いツナヨシは、慌てて飛びずさる。
だがツナヨシが離れても、すぐさまベルフェゴールが距離をつめ、結局、体勢を崩したツナヨシは背中から倒れこみ、今度は逆にベルフェゴールがのしかかる格好だ。
「ちょ、ベルやめろって!」
「ツナヨシってさ、マジ天然だよね」
「はぁ?」
そんな貌をして、そんな眼をして、―――それで、誘ってないなんて反則だ。
「ホント、美味そう」
「ベル・・・」
(あの。それは一体どういった意味で?)
思っていても、怖くて聞けない。冷や汗をながし、口を閉ざしたツナヨシを見下ろすと、切り裂き王子はご機嫌に笑い、ツナヨシの細い手を取り、口づけを落とす。
その仕草は実に優雅というか洗練されているのだが、如何せん相手はツナヨシだ。
ドクドクと心臓は高鳴り、ゾクゾクと体が震える。
あわあわと耳まで真っ赤になったツナヨシに、さらにベルフェゴールは身をかがめる。
近づく王子の口元には相変わらずのふざけた笑み。長い髪に隠されて、その瞳も表情も、本気かどうかも読めやしない。
「じょ、冗談だよな?ベル、ちょ、やめろって!」
ギャアギャアともがき、騒ぐ、ツナヨシを軽々と押さえ込み、ベルフェゴールは
愉しげに笑う。
心を揺らす、淡く未熟な感情。
体の奥底からこみあげる、この気持ちを、
今はまだ―――恋とは呼ばない。
END.