ボスのハートを手に入れろ




サワダツナヨシ。
泣くマフィアすら黙る、天下のボンゴレ十代目ボスである。
そんな彼女もお年頃。


ボスに就任してしばらくがたち、仕事にも慣れてきた今日この頃。
彼女を悩ませる、ある問題が浮上していた。
「はぁー・・・ねぇ、バジルくん。これで今日の分は全部?」
「はい、サワダ殿に目を通していただく分は。格下の相手やこちらで処理できるものは、はぶきました・・・これでも届いた分の半数にも満たないんですよ?」
クスクスと可憐に笑う、CEDEFから借り受けた有能な補佐役に唇を突き出し、それでもツナヨシはため息をつく。
「うー、まだこんなにあるのに。にしてもさ、イタリアマフィアって
――――――なんでこんなにパーティーとか会合好きなの!」

そう、十代目の執務室は、各ファミリーから送られてくる招待状で埋め尽くされていた。
しかも、ひとつひとつに花束だの、ドレスだの、装飾品だのといったプレゼントつきである。その量たるや時に執務室からはみ出し、廊下をも占拠するほどだった。
これがこの所、ボンゴレ十代目執務室を直撃している問題である。
にこやかに、しかし有無を言わさぬバジルの笑顔に気圧され、ツナヨシはしぶしぶ招待状に目を通していく。いまだおぼつかないイタリア語に苦戦しながらも、なんとか文章を追っていくツナだったが。
次の瞬間、突如轟音とともに執務室の扉が吹き飛んだ。
「わっ!」
「何者だ!」
即座にツナをかばい、臨戦態勢をとるバジルだったが、粉砕された扉から現れたのは、見知った人物。
「ザンザス!もう、何してるんだよ!普通にあけてよ!」
「ちゃんとノックをした」
「だーかーらー、ノックで扉壊さないでっていつも言ってるじゃない!」
「・・・・」
「聞こえないフリしたってダメだからね」
ツナの小言など聞く耳をもたないザンザスは、原形をとどめない扉をまたぎツナヨシに歩み寄る。そしてザンザスに続いてヴァリアーのメンバーが続々と入ってきた。
「う゛ぉぉぉい、ボス!報告書わすれてるぞ」
「しししっ、扉コナゴナじゃん」
「うむ、さすがボス」
「ボクの幻術でなおしてあげようか?安くしとくよ」
「あら〜じゃあ、次はヴェルサイユ宮殿チックな装飾にしましょうよ〜」
「いや、その前にフツーに来てよ・・・」
どっと疲れがでたツナヨシは、ぐったりと机に体をあずけるが、その拍子にうず高く積まれた大量の招待状が崩れ落ちた。
「うわっと!」
あわてて支えるツナヨシに、ふたたび扉から声がかかる。
「おい、ツナ。来週の戦闘訓練の打ち合わせするぞ!あと、ついでに教官としてコロネロも連れてきた」
「久しぶりだな、コラ!ちゃんと修行してたか?」
「リボーン!それにコロネロも」
家庭教師と地獄の鬼教官に続き、さらには地方に仕事で散っていた守護者たちが我先にと執務室に駆け込んでくる。
「十代目!ただいま、ただいま、ただいまもどりました!!」
「ツナ、みやげ買ってきたぞ〜」
「極限ナイスファイトだったぞ!」
「なははは、ツナー、ランボさんと遊ぶんだもんね」
「キミ、なんでボクの後をついてくるのさ。咬み殺すよ」
「ボクの方こそキミと同じ空気を吸うなんて、不愉快です」
「あ、みんなも。ごくろうさま」
もともと広い執務室だが、ヴァリアー、アルコバレーノ、守護者たちがズラリとそろうと、さすがに手狭に感じる。というか、圧巻である。

そして、互いに執務室にいる面々に気付くと、早くもあちこちで、
「あ、テメーら何しに来やがった!」
「ししし、切り刻んであげるよ」
など軽い挨拶にはじまり、殺気を含んだ睨み合い、無言で武器をかまえ対峙するなど、にぎやかな不協和音が奏でられている。
わいわいと物騒に騒ぐ面々に、
「もう!みんな、ケンカはナシだよ?」
ツナヨシはにっこりと微笑んだ。
たったそれだけで、全員がギシッと固まったが。
しかし、両手で大量の手紙を支えるツナに気付くと、彼らは執務室を占拠する、華やかな物体の数々に不審で不機嫌な視線をむける。

「「「「「「で、なんだ(ですか)?これは・・・」」」」」」
「ああ、これね。なんか招待状とか。あんまりマフィアのイロハって詳しくないんだけどさ、こんなにパーティーとか会合するんだね」
そう言ってツナヨシはすぐ側の招待状をパラリとめくる。
「ミルフィオーレの白蘭なんて、『ボス就任の2746日祝賀パーティー』って。なんかすっごくキリが悪くない?ディーノさんからは、『エンツィオがはじめて膨らんだ六周年祝賀会』って。よっぽどエンツィオがスキなんだなぁ・・・」
と、招待状を眺めながら無邪気につぶやくツナヨシに、あきれてスクアーロが声をかける。
「う゛おぉぉい、お前それは・・・」
「黙れ!カス鮫」(ドゴッ)
「ふぐっ」
「余計なこと言って、下手に意識されたらどうする!」(チャキ)
「・・・わかったから銃をしまえ」
ザンザスの強烈な一撃とリボーンの明らかな脅迫をうけ、口元の血をぬぐいながらスクアーロは確信する。
(コイツ、めちゃくちゃ鈍い!)
そして、のんきに招待状を眺めるツナヨシのあまりの『無防備さ』にその場の全員が戦慄した。
(これはマズイ。これは、早急に手を打たなければ――――)
いまだかつてあり得なかったことだが、今この瞬間、守護者、アルコバレーノ、ヴァリアーの思考が一致したのだった。

――――いつか誰かに喰われちまう!!

彼らの魂の叫びは残念ながらツナヨシに伝わることはなかった。


End.